こうして紡や姉さんに解体アイテムを譲ったり、アルトやロミナに売ったりする内に二日目が終わっていた。
†
「今日が三日目だが、相変わらず変化なしか」
装備などの準備を一応に終えた俺達は特設マップに来ていた。
辺りは大地の表面に絨毯の様な雪が積もり、空と同じ赤い雲が上空にあった。
次元の裂け目の黒いヒビは、この三日間まるで変化がない。
ゲームが始まって一ヶ月目に何かあるとすれば今日なのだが……。
「……もしかしたら、他に何かあるのかも」
「目に見える物だけが真実ではない場合もあるでござるしな」
「一理ありますね。ですが、それならば気付く方がおられるのではないですか?」
「タイトルにもなっている位だから個人クエストって事はないと思うが……」
半ば次元の裂け目を監視している俺達の緊張は最初こそ厳しかったが、既に何回、何時間とここに来ている影響で、緩くなり始めていた。
常に緊張しろとは言わないが、何も起こらないので仕方がないとも言える。
俺達以外もそれは同じなのか、周囲――12、3程、監視役のパーティーがいるが、それ等皆が話ながら警戒に当たっている。
中には眠そうにしている者もいるが、何時間ここにいるんだろうか。
話によるとロゼ達前線組の中には24時間体制で監視している所もあるそうだ。
どこのゲームでも凄いのがいるもんだな。
「一応再度確認しとくか」
「わかりました」
今日で何度目か分からないが装備やアイテムなどの確認は全員で定期的に行なっている。
さて、俺も確認しないと。
ステータス、スキル、アイテムなどを確認していく。
名前/絆†エクシード。
種族/魂人。
エネルギー/92360。
マナ/7800。
セリン/46780。
スキル/エネルギー生産力Ⅹ。
マナ生産力Ⅶ。
フィッシングマスタリーⅣ。
解体マスタリーⅣ。
クレーバーⅢ。
高速解体Ⅲ。
船上戦闘Ⅳ。
元素変換Ⅰ。
エネルギーが一週間前よりも随分と増えた。これも硝子達のおかげだ。
海のモンスターは強いがその分経験値も多い。
最初こそ船上戦闘スキルがなかった事が原因で色々と困ったが慣れればかなり良い狩り場でもあった。
硝子なんて『船の上の方が、調子が良くなってきました』なんて言い出す始末だ。
慣れって怖いと思う。
意外と船は掴まる場所などもあるので、多目的な戦闘ができるというか……まあそこ等はディメンションウェーブとは関係ないか。
場所的に内陸だしな。
ちなみにスピリット三人組の中で俺のエネルギーが一番少ないのは今更か。
エネルギーに関しては特に闇影が多い。
火力が増して殲滅力が上がり、効率が上がるので文句は言わないが、あいつが使うスキルはドレインオンリーだからな。自然と増えていく。
硝子は元々が前線組なので、基礎代謝が違う。
実情、増えた様に見えて俺が一番低いって感じだ。
まあ俺の使うエネルギーが多くても解体武器だから、そんなに変わらないんだが。
武器は一新こそしたが、今回は勇魚ノ太刀オンリーだ。
作成アイテムの関係か未だに威力では上だったりする。
何より包丁みたいな刃物が多い解体武器の中で一番大きいからな。
乱戦が予想されるディメンションウェーブではこっちの方が良い。
「多分、今日だと思うから足りない物があると思ったら、取りに行くんだぞ」
「……さっき行った」
「自分は三回程行ったでござる!」
「それは自慢にならないからな」
相変わらずの俺達だった。
ちなみに俺は硝子が必要なアイテムの確認を取ってくれて忘れなかった。
硝子はこういう事きっちりしているので一度も戻っていない。
個人的に凄いと思う。
いや、単に俺がアイテム欄に物を入れ過ぎなのかもしれないが……。
「次の確認だが、この手のイベントは人が密集するから大体はぐれる。はぐれた場合、各自に任せるって感じでいいか?」
「了解でござる」
今更だが作戦でもなんでもないな。
実際、今監視しているパーティーですら結構な人数だ。
ディメンションウェーブというのがどの程度の難易度で設定されているかは不明だが、参加者数的に一方的な敗北って事はありえないだろう。
俺は既に何度目かは知らない準備が完了して黒いヒビへ視線を向ける。
相変わらず変化の無い姿に欠伸すら沸いてくる始末だ。
「絆さん。少し気が緩みすぎかと」
「こうも何もないとな」
「そうですね。ですが今は耐えるべき時です」
「硝子は相変わらずだな……そういえば……」
先日、俺は硝子の元パーティーと思わしき人物等に遭遇した。
パーティー構成や装備の充実具合から強いのは確かだろうが、どうにも違和感が残る。
勝手だとは思うが、俺の中で硝子は清く正しい、悪く言えば説教臭い奴だと思っている。
その硝子があの手の輩と意気投合したというのは納得が行かない。
なんというのか、ああ言う輩と遭遇したら説教とか初めそうな気がする。
「どうしました?」
「いや、単純に硝子の前のパーティーが気になってさ」
「あの方達ですか……」
「硝子の話じゃ、あんまり良い奴等じゃなかったんだろう?」
「いえ、最初は悪い方ではありませんでした」
「そうなのか?」
とてもじゃないが、そんな風には見えなかった。
こう、街のチンピラみたいな雰囲気というか。
「前線組と呼ばれ始めた頃からでしょうか、起こす行動が粗野になりはじめたのです」
「……硝子には悪いが、ありがちな感じだな」
「そうですね。人として当たり前の事に目を向けない彼等に注意する数は日に日に増えて行きまして……」
「ウザがれたと」
「はい。結局……彼等の事を、私の方が先に諦めてしまったんです」
それで現在あいつ等は絶賛有頂天状態って感じか。
俺もそうならない様に注意したい。
強くなったり、金が増えたりすると心まで強くなった気がするからな。
そうして誰かに諦められるのは……嫌だ。
「それじゃあさ、もしも俺が道を誤ったら教えてくれないか?」
「絆さんがですか? 今まで絆さんは誰かの為に行動していたと思いますが」
「そう評価されるのは嬉しいが、俺も人間だからな。どこかで間違える事はある」
「……わかりました。今度は必ず正しい道に連れ戻します」
脊髄で言ってしまったが、ちょっと後悔気味だ。
硝子ってなんか聖人君子みたいな匂いがするので、あれこれ言われそうな……。
ん?
「……あれ?」
前方に変化がある。
黒いヒビ――次元の裂け目が鈍く発光している。
既に硝子も気付いていて警戒態勢を取った。
やはり来たか。今日来るとは思っていたが、当たるとは。
「うわ!?」
俺達よりも前方で陣取っていたパーティーからそんな声が響く。
直後、そのパーティー付近から土煙が上がった。
そして次元ノ骨という名のアンデットモンスター、所謂人型の骸骨が現れた。
「……多いな」
前方に広がる光景――
骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨、骨。
土煙から現れる次元ノ骨、そして多過ぎて分からない後続モンスター。
さすがはディメンションウェーブ。多人数参加型イベントって感じだな。
「絆さん、一度後退をしてください! 私、闇子さん、しぇりるさんで防ぎますから」
「おう! あれ? 俺は?」
「……絆はリーダー、報告と援軍要請」
「そういえば何故か俺がリーダーでしたね!」
あれ? 闇影は……ってもうドレインの詠唱してやがる。
ドレインは中距離スキルなので初発としてはありだがな。
しかしアンデットにドレインって効くのか?
まあいい。
「わかった。一度、後退して報告してくる! 無理せずに後退も考えろよ!」
「わかりました!」
「ん」
二人の声を耳に、後方へ走りながらメニューカーソルからチャットを選択したのだった。
防衛戦
「ああ、だからそっちでもイベントが始まった事を伝達してほしい」
「わかったよ。絆、儲け話になる事を祈っているよ」
「そっちこそしっかり稼げよ。じゃあ切るな」
俺はアルトとのチャットを終了させると硝子達前方を眺める。
既に三人はモンスターと対峙しており、戦いは激化しつつある。
監視していた他パーティーも参戦して、さながら戦場の形相を示している。
援軍は紡、姉さん、アルトと各方面にしてある。
もう少し待てば大軍でやってくる事だろう。
『だから突然敵が沸いてんだ! 援軍をくれ!』
『こっちもそれどころじゃねぇよ!』
……マップチャットは突然の事態に先程からこんな感じだ。
少なくとも罵り合いというか、混乱していて会話できる状況に無い。
だから援軍要請も終わった今、俺は前で戦っている仲間の所へ行くべきだ。
勇魚ノ太刀を握り、走り出す。
『動揺するでない!』
マップチャットに響く大きな怒声。
あまりに大きいもので前方へ込めた足の力が緩んでしまった程だ。
その声を聞いた各所のパーティーリーダーは気迫の様な物を感じて沈黙。
こういう所は、やはりVRゲームだと思う。
パソコンのオンラインゲームだと誰かが注意しても会話垂れ流しだからな。
『皆援軍を募ったと思う。今より我等が任は彼等が来るまで如何に耐えるかじゃ!』
確かに、言っている事は間違いない。
前方のモンスターを確認する。
とてもじゃないが、現状の味方で人が足りているとは思えない。
『これより防衛線を引く、各地のパーティーリーダーは地図上の縦をA~E、横を1~6として場所を示し状況を逐一報告。現状を自軍全体で把握するのじゃ!』
そういえばこのマップの地図表示は縦と横に英文字が振られている。
A
B
C
D
E
1 2 3 4 5 6
これで現在状況を把握するのは確かにありだ。
『まずは言いだしっぺでから言おう。Cの3、中央じゃ。小山から敵の大群と敵後方に黒い塔が建造されているのが見える!』
黒い塔、か。
おそらく俺達プレイヤーが破壊しなければいけないモニュメントだろう。
まあ現状、敵が多過ぎて不可能に近いが、援軍さえくれば可能か。
よし! この人の防衛作戦、乗った。
俺は出来得る限りの声を出す為に息を吸い込む。
『こちらBの5、右側だ。敵と交戦中! 援軍報告は完了している!』
俺の声を皮切りに随所から現在状況が報告される。
敵は三方向全てに沸いており、各所で戦闘になっているらしい。
現状では援軍が来るまで援軍の出し合いは不可能、このまま耐えるしかない。
『援軍も無能ではあるまい。直に来る! それまで耐えるのじゃ!』
そんな声を随時発している。
報告は終わった。当初の予定通り戦線復帰する。
報告なら戦闘中でも可能だしな。
走って進むと戦闘状態になっている闇影が見えた。
あいつは俺達のパーティーの後衛だからな。当然か。
そのまま走りながら喋る。
「クレーバー! 援軍が来るまで防衛する事になった。皆、死なない様にしろよ!」
「わかりました!」
「承知でござる!」
「……ん」
スキルを叫んで勇魚ノ太刀を次元ノ骨に当てながら口にする。
厳しい戦況だが、不可能じゃない。
それに周りには俺達以外にも前線組だっている。
簡単には負けないはずだ。
「絆さん、範囲攻撃を重点的に使うと良いはずです」
「あの大軍だしな。まあ俺は個別スキルしかないんだけどさ」
解体武器の初級スキル、クレーバーは単体攻撃スキルだ。
幸い骨とは相性が良さそうだがこの大軍が一匹減った所で焼け石に水。
無論、その一匹を倒すのも重要だが。
そうだ。まだ範囲攻撃云々は報告に上がってなかったな。
『敵の数が多い。範囲攻撃を中心に置いた方が良い!』
状況から理解している奴も多いだろうが、再三確認するのに越した事はない。
「高速解体……クレーバー!」
二つのスキルを立て続けに使用する。
高速解体は身体が少し軽くなるからな。支援スキルとして使った。
自分達に少しでも有利にさせる為なら、なんでも使う。
少なくとも援軍が来るまでは。
「絆さん、スキルの乱発は――」
「敵からの経験値で元は取れる。今は一匹でも多く仕留めるのが先だ!」
「理に適っています。では私も……乱舞二ノ型・広咲!」
これが俺達スピリット最大の長所だ。
敵を倒して得られるエネルギーがマイナスになったとしても無限にスキルを使い続ける事ができる。例え一発の威力が種族的に低くても乱発すれば上回る。
次元ノ骨は倒したその場からぞろぞろと行軍してくるが、それでも倒しまくればいい。
「弓持ちは撃って撃って、撃ちまくれ!」
戦場内の誰かが言った。
あれだけの数だ。撃てば撃っただけ命中する。
後方をチラ見すると弓スキル持ちは徒党を組んでスキルを叫びまくっている。
以前姉さんが言っていた、パーティーでは味方に当たる様な範囲スキルでも俺達を飛び越え矢が大群の中に吸い込まれていく。
骸骨である奴等に突属性攻撃は効き辛いが、それでも効果は確実にある。
現に少し敵の進軍速度が減少した。
攻撃命中による移動速度減少って所だろうか。
彼等に負けていられない。
「クレーバー!」
「……トグリング」
しぇりるも半製造ながら戦っている。
スキルはこの一週間で出た二番目の攻撃スキル、トグリングを使った。
貫通属性であり、本来であれば魚系モンスターと相性の良いスキルだ。
それでも前方向に貫通のあるこのスキルは敵を三匹は貫ける。
「自分は必殺忍法で行くでござる!」
「何が必殺忍法だ。どうせドレインだろ!」
「違うでござる」
「……なに?」
闇影と言えばドレインしか使わない事で有名だ。
俺達の中では火力を担っているが、きっと別のパーティーではゴミ扱いされそう。
そんな固定スキル使い。
その闇影が他のスキルを使うのか? エネルギー的に威力は高そうだぞ。
次元ノ骨をなぎ倒しながらワクワクしていると闇影の詠唱が完了する。
「サークルドレインでござる!」
………………………。
「どっちみちドレインじゃねーか!」
地面に巨大な円が描かれ黒紫色のエフィクトが次元ノ骨に喰らい付く、そしてドレインと似た様な色の緑の玉……普通のドレインより大きい玉が闇影に吸い込まれていった。
しかも微妙に範囲広くて一度に10匹程命中した。
ここ以外で使いそうにない、範囲吸収かよ。
まあいい。闇影のドレインはあれで性能が高いからな。
「言いたい事はあるが、今は使いまくれ!」
「無論でござる!」
それでも敵は一向に減らない。
単純にこちらの数が足りていない。
これはどう見ても多人数参加型大規模戦闘。当たり前といえば当たり前か。
「ちいっ!」
不用意にスキルを使いまくっていたら、隙を突かれて四回攻撃を受けた。
合計470ダメージ。
一発一発のダメージこそ少ないが、これは囲まれたらあっという間に削られる。
「絆さん! 乱舞三ノ型・桜花!」
「助かる! クレーバー!」
扇子のスキルは範囲攻撃が多い。
今みたいな大規模戦闘にはうってつけの状況だ。
現に硝子のスキルで敵五匹が一度に倒れた。
今まで使ったエネルギーが回復して、少し上回っている。
だが、それでも攻撃を受けたら意味がない。硝子の援護が入ってどうにか五回目の攻撃を受けずに済んだが、これは厳しい。
「絆さん、少し後退しましょう。私達は孤立しかけています」
「くっ! 了解した」
落ち着いて周囲を確認すると硝子の言葉通り、俺達は敵を防ぎ過ぎて孤立している。スキル使い放題なのは長所だが、前と横から一度に攻撃を受けたら防ぎようがない。
俺達は横の敵を攻撃しながら後退を始めた。
劣勢状態
『皆の者。援軍がポツポツと来ておる。ここが正念場じゃ!』
あれから俺達は戦線を維持しながら少しずつ後退を重ね結局現在Dの4まで後退してしまっていた。
この辺りは道が狭くなっているので防衛には適しているが厳しい事実は変わらない。
更に敵の種類が増えた。
次元ノ骨。
次元ノ尖兵。
次元ノ弓兵。
これに伴って今まで魔法や弓で一方的に攻撃出来ていた状況が一遍した。
尖兵は槍を持っており、隙が少なく攻撃力が骨より高い。
弓兵は遠距離攻撃なので後衛に攻撃を当ててくる。
実に厳しい状況が続いている。
当然こっちだって一方的に押されている訳ではなく、援軍が少しずつ来ている。
そのおかげもあって戦線崩壊だけはどうにか免れていた。
「MPが回復した奴からスキルを使い続けるんだ。特に弓と魔法は回復を重視してくれ!」
俺達と同じくずっと防衛しているパーティーのリーダーが叫ぶ。
弓も魔法も範囲攻撃が有効打となるので戦線維持には欠かせない。
若干闇影が空気読めない奴っぽく見られているが、しょうがない。
あれでもドレインにだけスキルを振っている分、ドレインにしては威力が出るんだぞ。
ドレインにしてはな!
しかし、このままでは防衛線が崩壊するのも時間の問題だ。
既に何名か敵軍の餌食にあって死んでしまい復帰ポイントへ強制転移されてしまった。
おそらくDの4は右側最後の砦だ。
ここを落とされれば取り戻すのは容易ではなくなる。
「絆さん。決定打を撃たれる前に対策を取りましょう」
「丁度俺もそれを考えていた所だ。だが、具体的な手段がない」
「それなら私が敵軍の先端を押し広げます」
「おいおい、無茶言うなよ」
「無茶ではありません。スキルの乱発の効く私達なら可能なはずです」
確かに現状自軍がMP不足で困っている中、俺達スピリットは種族柄困っていない。
闇影が未だにサークルドレインを唱え続けられるのもスピリット故だろう。
現に今魔法スキル持ちの多くは安全地帯まで後退して回復している。
今回の戦いで気付いたがスピリットは持続力もある。
無論、エネルギーを回復させてくれる存在が自分から突っ込んでくるのも大きい。
言葉を待っている硝子の目を見る。瞳は決意で燃えていた。
……硝子ならそう言うんじゃないかって何となく分かっていた自分が嬉しい。
「エネルギー全損の可能性もあるんだぞ?」
「覚悟の上です」
「わかった。俺も行こう」
「絆さん?」
「さっき言った話、追加するな」
「はい?」
「硝子が間違えたら俺が間違いを正す」
呆気に取られた表情をした硝子。
そんなに俺の言葉が意外だったのか、正直微妙な気分だ。
「あの大軍に一人で行くとか、どう考えてもイカレテるからな」
「……そうですね。では、共に参りましょう」
微笑んだ硝子と共に俺は立ち上がり宣言する。
「こちらスピリットペアだ。種族的にスキルを撃ち続ける事ができる。敵軍の先端を押し広げてみる」