Wave of dimensions — страница 24 из 111

尤も使われる薬品については秘匿されている……。


なんだ? 最後の一文は。開発者は何を意図してその説明文にしたのかは知らないが、ブラックジョークか何かだろう。

ともあれ、ペックル病院を建設するとストレス増加を抑えられるみたいだ。ローテーションに影響が無いかを確認した後、手の空いているペックルに建設を命じた。


こんな風にペックルダンジョンから設計図を拾ってくるんだな。

尚、この病院を建設するには今までと違い鉱石が必要らしい。

鉱石はペックルが採掘をする事で倉庫に溜まっていく。

現状しょぼい……というか銅や鉄ではなく、島限定の鉱石が多い。まあ銅や鉄が大量に手に入ったら、カルミラ島を手に入れたプレイヤーが有利過ぎるからな。

ちなみに俺がドリルで採掘すると稀に銅や鉄が出てくる。

100個に1個位だけど。

さて、そろそろ釣りでもしているか。などと考えていると硝子からチャットが届いた。

珍しいな、と思いながらチャットに出る。


「どうした?」

「私だけ教えるのは不公平かと思いまして、一度教えて頂きたい事があったんです」

「なんだ? 俺が教えられる事ならなんでも答えるぞ」

「では、釣りについて教えて頂けませんか?」


こんな感じで、俺一人だった生活が二人に変わっていった。

新たな開拓地

相互師弟関係を結んだ俺が硝子に釣りを教えていると、ついにその時は訪れた。

東の海、赤く染まった空が閃光を放って閉じる。やがて青い空に戻った。

そうして強制的に現れるシステムウィンドウ。


――ディメンションウェーブ第二波討伐!


今回は不参加なのであまり期待していないが貢献度などの総合順位を確認する。

えっと……。


――総合順位暫定100位、絆†エクシード。第二波免除。


――総合順位暫定100位、函庭硝子。第二波免除。


「暫定ってなんだ?」


項目を調べると免除と表示されており、更に戦績報酬にリミテッドディメンションウェーブ討伐による免除と書かれている。

やはりこの島は何かしらの条件に入っているのか。

さて、俺の仲間がどうなっているか。


――スピリット順位一位、闇影。


相変わらずエネルギーは一番なのか。

まあ、あいつはドレインマニアだからな。この前キャラがブレていたけど。

前回と同じくアルトとロミナが物資支援の順位に入っている。

良く見れば前回と似た様な名前が並んでいるので商売系は固まってきたな。

次に戦闘系に視線を移していく。

今回は五位までに紡の名前が無かった。

参加していれば上位にいるだろうと踏んで合計ダメージの欄を探す。


――合計ダメージ27位、紡†エクシード。


紡は前回よりは少なくなっている。

俺達と付き合って海で戦っていたから前線組よりレベルが低いのかもしれない。

逆にディメンションウェーブ第一波と違って、相性が悪い敵がいた、とも考えられる。

第一波は敵が沢山沸いてきたから大鎌と相性が極端に良かったからな。


――月間生活ランキング1位、絆†エクシード。


「俺かよ!」


いや、まあ……カルミラ島での生活はサバイバルって感じだが……。

ペックルとか、破壊とか、ドリルとか、釣りとか釣りとか釣りとか。

何を基準に計られているのかは知らないが、この島でやっていた事は多彩だからな。

単純に釣り、家屋の破壊、料理スキル、伐採、採掘、田畑を耕す、野菜の収穫。

数え上げればきりがない。条件は分からないが一位というのも少し分かる気がする。

そもそも皆と帰らずの海域を彷徨っている時も釣り生活だったからな。

良く考えれば、この一ヶ月日常系のプレイばかりしていた。

まあ良いか。一位なのは素直に嬉しいからな。

さて、次はスキルや追加装備だな。


――追加スキル、及びアイテムの実装。


今回は生活系の装備が多く、やはりドリルも含まれていた。

なんかドリルと同じく機械的な物が増えた気がする。

伐採斧にチェーンソウって……世界観的に大丈夫なのか?

一応は文明発展による大発明的な事が書かれているが、どうなんだろう。

ともあれドリルが項目に増えたのでこれからはスキルを習得できる。

後で取得しておこう。最低でもこの島では使えるだろうし。

何より戦闘に使うというのもいいかもしれない。

今度、カルミラ島から脱出できたらロミナに作ってもらうか。


他は後でゆっくり確認するとして最後の報酬だ。

前回と同じく『報酬を受け取りますか?』という選択肢を『はい』と押す。

すると見慣れた、けれど描かれている絵柄が微弱に違うルーレットが回った。

あ! 今一瞬釣竿の絵柄があった。

アタレ、アタレ、アタレ!


「あ……」


スクロールが止まり、釣竿が三つ並んだ直後、パチンコやスロットの確率変動みたいに絵柄が三つともずれて釣竿ではない、剣の柄みたいな絵柄にすり替わる。

いや、それじゃないから!

と思ったのも束の間、獲得アイテムが表示される。


――エネルギーブレイドアタッチメント獲得。


……微妙。

当たって嬉しい様な、外れて悔しい様な、激しく微妙な気分だ。

アタッチメント……意味は付属品だったか。

なんとも縁があるこのアイテム。エネルギーブレイドを所持しているが条件か?

ともあれ合成できるか確認してみる。

アタッチメントは小さな球体の形をした結晶だ。

丁度、エネルギーブレイドの柄の出力口にはめられる大きさ。

実験にはめてみるとカチッという良い音がした。


――エネルギーブレイドⅡ獲得。


Ⅱ……。

性能はどうなんだろうな。

前回とは違って説明文は表示されなかった。

まあさすがにⅠより性能が低いはずがない。

今まで通りいざという時に活躍してもらうとしよう。


「はぁ……参加したかったな……」


一体どんな敵が現れて、どんなボスと戦ったのか。

俺自身戦闘スキル構成ではないので参加は無謀な気がするけど、一回目が盛り上がって楽しかっただけに不参加は悔やまれる。

よし、第三波は絶対に参加しよう。うん。

丁度硝子に訓練してもらっているんだし、その成果を試す感じで。

まあ次のディメンションウェーブはきっと来月だろう。

今までの法則からして。


「よかったですね。絆さん」

「はい?」


むしろ参加できなくて溜息を吐いていたんだが。

硝子の言葉に何か含まれた意味があると思うので言葉を待つ。


「いえ、絆さんの生活ランキングが一位なので皆さんに安否を結果的に報告できています。そして私の項目を見ていただければ、一緒にいるんだろうという予測は付くかと」

「……なるほど」


確かに行方不明の俺が生活ランキングで一位だったら無事である事は知らせられる。

この島から外部に連絡手段が無い以上、しょうがないと言えばしょうがないが。


「絆さん。そういえば気になっていたのですが、奏さんという方は絆さんが以前話していたお姉さんでしょうか?」

「ああ、そうだ。そういえばもう二ヶ月近く会っていないな……」


最後に会ったのはゲーム開始一週間後の合流時だ。

紡の方は後からパーティーに加わったから忘れていた。

良く考えると俺は姉さんがどんな事をしているのか知らないんだよな。

確か戦闘スキルを取るみたいな事を最初の頃言っていた覚えはある。前回のディメンションウェーブで、目に入る順位に名前が無かったので気が付かなかった。

気になってランキングから姉さんの名前を検索してみる。

すると……。


――総合順位64位、奏†エクシード。


なんか微妙に高い順位にいる。

前回のディメンションウェーブでは名前も聞かなかったので驚いた。

もしも第二波に参加できていたら姉さんの活躍を目にできたのだろうか。

あれであの人もゲーマーだからこの順位なら勇姿を拝めたのかもしれない。

どちらかと言えば最大レベルなどが見付かって、装備やスキルが研究し尽くされてから強くなるタイプだからこの結果は意外とも言える。

まあ今度会ったら褒めておこう。


「さて……問題は、俺達はいつまでこんな生活を続けなければいけないか、か……」


以前考えた予想ではディメンションウェーブが発生すれば出られると予想していたが、どうやら予想が外れたらしい。開拓がある程度進めば出られると信じてペックルとがんばっているが、先が見えないからな。

ペックルカウンターを見ても変化は……ペックルが1匹がこっちに向かってきている。

来る方向を眺めると何故か太陽を浴びて、頭上が光っているペックルが見えた。

特徴的な赤い三角の布の先端に白いボンボンが付いている相変わらずのペックル。

毎回思うんだが、どうして報告に来るのはサンタ帽子限定なんだろうか。

そして、てちてちとやってきて言った。


「新しい開拓地を発見したペン」

「このタイミングでか……」

「行ってみますか?」

「そうだな」


ペックルカウンターに表示された新しい開拓地とやらに向かってみる。

場所は中腹辺りにある、上への道を邪魔していた崖だ。

ロッククライミングでもできれば話は別なんだろうが、生憎そういうスキルは持っていない。なので後回しにしていた。


「崖?」


自称発見したという新しい開拓地とやらは崖になって進めなかった。

見てみると崖の向こうに数匹のペックルが何か作業を行っている。

あいつ等、どうやって向こう側に行ったんだ?


「絆さん。あれを見てください」

「ん?」


硝子の指差す方向を眺めると少し高めになっている崖に一匹のペックルがいた。

ペックルは何を思ったのかそのまま崖へ向かってダイブ。

ははっ。死んだな。

いや、ペックルはどんな過酷な労働を強いられても死なないけどさ。

しかし無意味にストレスゲージを溜められると困るんだが……。


「ん~~っ!?」


飛んだペックルが何やら紐の様な物を使って頭上にある引っ掛ける部分に紐を引っ掛けて綺麗な弧を描いて向こう岸に着地した。

俺が唖然としていると、また同じ様にペックルが飛んで渡る。


「え? あれが正規ルート?」

「絆さん。以前話していた開拓者の七つ道具にロープという項目があったのでは」

「あー、なるほど」


しかし……あれをするのか?

アクションゲームなんかでは良くあるギミックだが、正直ロープでターザンはちょっと厳しい物があるぞ。

下は深く、流れの強い川になっているので死にはしないと思うが、怖いだろう。

俺が嫌そうな表情をしていると硝子が申し出てくれた。


「絆さん。私でよろしければ開拓者の七つ道具を借りて行って見て来ましょうか?」

「いいのか?」

「はい。この手の運動は小さな頃からしているので問題ありません」


忍者か、お前は。

いや、忍者は闇影か。……闇影はどちらかと言えば忍者というかジャパニメーション・シノビって感じだからな。こんなアクロバットを闇影にはできないだろうよ。

まあ硝子ができるなら頼むとしよう。


「じゃあ頼んで良いか?」

「はい。任されました」


小箱の形をした開拓者の七つ道具を交換ウィンドウで渡す。

重要アイテムなのか手渡しでは渡せなかった。


「じゃあ頼んだぞ。大体の事は任せるから後で報告してくれ」

「承知しました」


そうして硝子はペックルと同じ要領でロープを器用にも使って向こう岸に渡った。

いや、本当お前は忍者かって話だ。

それにしても硝子の現実の姿が全く想像できない。

……現実の事を聞くのはマナー違反だろうけどさ。

向こう岸で手を振っている硝子に手を振り返して、硝子は探索に向かっていった。

硝子なら仮にモンスターとか居ても大丈夫だろう。

そうして数時間程した後、硝子から朗報が届いた。


――水が綺麗な池を見つけましたよ。


新たな開拓地である池を発見した硝子。

その情報を聞いた俺がまず取った行動は……こうだ!


「ターザン決めるぜ!」


釣りの事となると頭のネジが外れる俺は、今まで通り一直線に行動した。

硝子に開拓者の七つ道具を返してもらい、ロープを使った訳だが……。


――あ……。


ロープを引っ掛けるまでは成功した。だが、次の難関である飛距離が足りない。

要するに失敗して崖に落ちた。

崖下は川になっており、水面に落下するまでの間、例え様も無い浮遊感に襲われる。

やがて水面に身体を打ちつけた音と、冷たい水の感触が広がり、川を流される。

泳ぎスキルとかそういう次元ではなく、川の流れが速過ぎて意識が遠のく。

気が付くと俺は島の川と海の間、河口近くに流れ着いていた。

こういう時、プレイヤースキルが無い自分が嘆かわしい。

尚、どうでも良い補足だがダメージ1000受けた。

エネルギー的に死亡こそしないが、シールドエネルギーを超えている。


「もう一回だ!」


10回程挑戦したが、結局向こう岸に渡る事はできなかった。

残念ながらロープのレベルはあまり上げていないんだ。

使う場所がわからなかったというのも理由だが、突然必要になると困る。


「絆さん。私が向こう岸に送ってみましょうか?」

「本当か!?」

「絆さんは本当に釣りが好きなんですね。確約はできませんが、力を尽くしてみます」


そうして開拓者の七つ道具を硝子に渡し、俺達はもう一度崖までやってきた。

硝子も話しているが二人で渡れるかは、かなり怪しい。

だが、もしかしたら硝子なら行けるんじゃないか?

と、期待した。


「それでは行きますよ? しっかり抱きついていてくださいね」

「おう!」


俺は硝子の身体にがっしりと抱きついている。身体が小さいので腰の辺りに腕を回す形だ。システム再現だが硝子が着用している和服と硝子のラインを感じられる。

我が侭を言えば、こんな小さな姿ではなく、もう少し大きくて、俺が抱きしめられる形が良いんだがな。いや、そういう趣旨じゃないのは理解しているけどさ。

ともあれゲームなので体重云々は分からないが俺はロリキャラ、軽いかもしれない。

いざ、出陣。


「行きます!」


そうして崖に向かってダイブした訳だが……。

硝子は俺と違ってすんなりと完璧な位置取りでロープを取っ掛かりに引っ掛ける。

そして俺達にロープを軸に遠心力が発生して向こう岸へ飛んだ。

飛べた! と思ったのも束の間、ロープの方が重さ耐えられなかったのかロープが軋んでブチリという良い音を立てて遠心力が本来とは違う方角へ機能する。

やがて見えてきたのは向こう岸の崖ではなく、壁だった。

このまま行けば無意味にダメージを受けそうな所を硝子が落下中に扇子を取り出して壁に向けて突き刺し、同時に足をバネの様に当てて衝撃を和らげる。

そうして壁にこそぶつからなかったが跳ね返った俺達は川へと落ちていった。

結果俺達は、二人そろって垂直にうつ伏せの体勢、エンピツの様に河口に流れ着いた。


「ぐああああ!」

「すみません」

「い、いや……硝子は悪くない。普通に無理だったんだよ。二人ターザンはさすがに……」

「みたいですね」


こんな感じの暴走もあったが、ペックルの開拓は進んでいった。

俺は現地に行けないので分からなかったが、硝子に任せて崖向こうは着実に開拓が進んでいるらしい。

尚、ロープのレベルが低いから俺では飛べないと結論付けてレベル上げ中だ。

開拓者の七つ道具はどうやら所持している人物毎にレベルが設定されるみたいでな。

ともあれ俺のロープレベルが3になり、後ちょっとで崖を渡れると思った頃……。

ある日、ダンジョン攻略部隊が『橋』の設計図を拾ってきた。今までペックルのやる気、ストレスに補正を掛ける施設が多かったが、島内施設の誕生だ。

俺はすぐにペックル達へ橋建設を命じて例の開拓地への橋が作られていく。

無論、一秒でも早く池で釣りをしたい俺だが……結局俺がロープで岸を渡るよりもペックルが橋を完成させる方が早かった。


「橋が完成したペン」


サンタ帽子ペックルの報告を耳にした直後、俺は硝子を連れて向こう岸に渡った。

崖より先は、今まで目でしか見えなかったが、近付くと森が深い。

暖かい気温と草の腐った様な臭いとジメっとした湿り気からジャングルの様な印象を受ける。環境音も鳥と虫の鳴き声がひっきりなしに流れていて落ち着かない。

この辺りはまだ伐採が進んでいないのだろう。

橋が完成したのでペックルの移動に掛かるタイムロスも減るからな。

……見た感じ、今までの開拓地と比べて木の種類が違うな。

そういえば材料が足りなくて作れない施設が増えていたが、木の種類か。

単純に伐採と言っても伐る木によって手に入る物が違うのか。

まあ伐採斧にスキルがあるのだから同じ物しか手に入らないなんて事はないはずだよな。


「絆さん、こちらです」


既に何度か探索をしていた硝子が道を教えてくれる。

俺が池に行きたいと言っていたのを知っているだけに歩みは一直線だ。

やがて見えてきたのは大きな池。

これでもっと大きければ湖と呼ぶ所だが、そこまで広くはない。

精々現実に存在する記念公園の大きな池程度の広さだ。

水は綺麗なのだが……下に深い。

俺は現実では釣りをあまりした事が無いので何が釣れるか見当もつかない。

コイとかだろうか?


「よし、弟子よ。これからはここで釣りをするぞ」

「はい、わかりました。お師匠様」


若干俺の方が色々な面で弟子より劣っている気もするが釣りでは俺が師匠だ。

戦闘では硝子が師匠なのであんまり偉そうな事は言えないけどな。

まあ師弟ロールプレイだと思っている。俺も硝子との修行で師匠と呼んでみるか。

ともあれ釣りだ。

今まで海で我慢していたので気分が高鳴る。

開拓者の七つ道具は硝子に使わせて、俺は愛用の竿を使う。

餌が無いのでルアーだが、ずっとやっていれば一匹ぐらい釣れるだろう。

早速釣竿を振って光のルアーを池に投げ込む。

フィッシングマスタリーからくる完璧なリリース故に音など立てない。

まるで撫でる様に水面を微弱に揺らして光のルアーは泳ぎ出す。

後はリールをうまい具合に巻いて魚を引っ掛けるだけだ。


「おお?」


光のルアーが泳ぎ始めた直後、巨大な魚に追いかけられている。

あのままでは胃まで一直線で引っ掛けるのは難しそうだ。

俺は光のルアーをコントロールして食べられる直前に唇に引っ掛ける。

おそらくは巨大ニシン、イカに続くぬしクラスの魚だろう。

最初の釣りで引っかかるとは運が悪かったな。


――プツン!


「は?」


巨大な魚に光のルアーが引っかかった直後、糸が切れた。

それも少し強く引っ張られただけで。

俺の釣竿は余った糸と竿の部分だけが残る。


「光のルアーがああああ!」


無意味に感情の篭った俺の叫びが池に木霊するのだった。


海女現る

「誰か会いたい人はいるペン?」


光のルアーを失った俺はしばらくの時を池で餌無しで釣りをしていた。

硝子には開拓者の七つ道具を渡しているのでどうしてもそうなる。

尚、開拓の方は順調に進んでいて、この辺りの伐採も始まった。

今はあの魚、俺の愛すべき光のルアーを奪ったぬしの息の根を止める事だけを考えている。俺がどうしてあのぬしを一方的に敵対視しているのか……それは夜になると沼の底で光のルアーがじんわりと光っているからだ。

まるでお前は敗者だ。と言われている様でムカツク。ただそれだけの理由。


「しぇりるだ」

「迷いもなくしぇりるさんなんですか?」

「しぇりるは泳げる。何より銛スキルでドンッだ!」

「……やはり、そういう趣旨ですか」


硝子の呆れる様なジト目を眺めつつ、俺はペックルが表示させたウィンドウに『しぇりる』と名前を入力する。

確かあいつは空欄とか記号とか無いはずだから、ひらがなでそのまま入力すれば良い筈。一応はフレンド欄からコピーペーストして入力した。