Wave of dimensions — страница 4 из 111


「さて、アイテムを売るか」


時計を確認すると09・27と表示されている。

さすがに商売根性逞しいアルトの事だ。もう起きているだろう。

一度チャットを送ってみよう。

確かアルトレーゼだったか。

アルトレーゼ商会云々という会話が妙に耳に残っていたので正確に覚えている。

紡にチャットを送った時と同じく電話音を聞きながらアルトの返信を待った。


「はい、アルトレーゼです」


耳聞こえの良い覇気のある声だ。

今日も商売一直線と言った所なのだろう。


「ああ、俺だ」

「その声は昨日の女の子、じゃなくて女キャラを使ってるんだっけ」

「そう、その絆だ」

「絆って言うんだね。つい昨日は名前を聞きそびれちゃったよ」


そういえばそうだった。

アルトの名前は聞いたが俺の名前『絆†エクシード』という恥ずかしい名前は教えていない。というか意図的に言わなかった気もする。

まあチャットを送った時点で名前はバレているんだがな。


「それで今日はどうしたんだい?」

「ああ、アイテムを買い取って欲しくてな。魚ばっかりだがいいか?」

「もちろんだよ。今どこにいる?」

「地図に載っている海沿いにある橋の右側なんだが――」



俺達はお互いの場所を教え合い、結局昨日と同じ場所で落ち合う事になった。

橋から急いだつもりだったがアルトは既に来ていた。

昨日は初期装備だったが新しくなっている。

中々に羽振りが良さそうだ。


「やあ、絆。魚って言っていたけどどれ位あるんだい?」

「ああ、これ位だが」


俺はアルトが送って来た交換ウィンドウに了承を選択する。

普通に手渡しでも渡せるがアルト曰く、大量なアイテムを交換すると商談の場合こっちの方が良いそうだ。

俺は分解された鱗、骨、肉、お頭、牙、背ビレなどを交換ウィンドウに乗せていく。


「既に調理済みだけど、随分と沢山あるね。驚いたよ」

「調理済み?」


解体済みでは無くか? と口にしようとした所で先にアルトが喋る。


「うん、昨日絆と別れてから分かった事なんだけど、料理スキルの包丁を使って魚を調理すると何個かアイテムが増えるんだよ」

「へぇ」

「て、事は絆も料理スキルを取得したんだね。何か材料が必要だったら売ろうか?」


いや、料理スキルは項目が出てすらいないんだが、と口にしようと思った所で思い留まる。

アルト程の友好関係が広いプレイヤーが解体武器の使い道を知らないはずが無いはずなんだが……もしかして何かあるのか?


「アルト、全く関係無いんだが、解体武器ってどういう効果があるんだ?」

「え? 確か武器によって特定種族に対するダメージが高いんだったかな。と言っても基礎攻撃力が低いから使っている人は少ないけどね」

「なるほど……」

「後、該当モンスターを倒した時に時々普通とは違うアイテムが出る位だよ」


……これはまさか、使用用途が判明していないって奴か。

俺の知る限り、魚を慎重に解体すれば鱗や肉などにできる。

だが、その情報は料理スキルで代用できるらしく、そっちの方が効果として見られている様だ。それなら、無理に言わずに金稼ぎに使えるか。

無論、遅かれ早かれ周知の事実になるだろうが、この手の情報は知られる前に使えば荒稼ぎできる。ゲーム開始時には良くある話だ。


「それで解体武器がどうしたんだい?」

「ああ、俺が使っている武器なんだ。そうか特定種族に特化の武器か……」

「なるほどね。絆は本当に珍しい事が大好きなんだ」

「まあな」

「それじゃあ、この数だ。合計6000セリンでどうだい?」

「そんなにか?」


当然の様にアルトは言ってのける。昨日は8000セリンが全財産と話していたが、俺がのんびりしている間に随分と稼いだみたいだな。


「料理スキルは時間が掛かるでしょ。時給換算だとこんなものだよ。それに量も多いし、現在の相場だと少し安い位だからさ」


安く仕入れて安く売る。昨日言っていた転売方法か。

なら良いだろう。NPCに売るよりも遥かに高額だしな。

俺は交換承諾の項目をOKを選択して6000セリンを受け取った。


「毎度ありがとうございます。また売るアイテムがあったらいつでも呼んでよ」

「ああ、次も頼む」


さて、俺はアイテム欄にある残った空き缶を眺める。

正直137個あっても困るだけなんだが。

NPCに見せても1セリンと5セリンだった。

違いはアルミニウムとスチールだ。

待てよ? アルミとスチールか。


「なぁアルト。もう一つ聞きたいんだが空き缶って今どれ位で売れる?」

「空き缶かい? 残念ながら捨て値だね。店売りした方が良い位だよ」

「そうか……気になるんだが、空き缶ってアルミとスチール、だよな?」


意味のある様に、声を低くして告げるとアルトはハッとした顔した。


「…………なるほど。溶鉱炉でインゴットにできるかもしれないのか!」

「溶鉱炉なんてあるのか」

「うん。製造系スキルの中に鉱石を溶かしてインゴットにする奴があるんだ」

「じゃあこれでできるかは分からないが調べてもらえるか? もしも本当に溶かしてアルミや鉄になるなら沢山あるからさ」


再度交換ウィンドウを開き、俺はアルミとスチールの空き缶を5個ずつ渡す。

ゴミの空き缶が何かの役に立つなら安い出費だ。

仮にインゴットに出来なかったとしてもはした金、あってない様なもんさ。


「絆、ありがとう! もしかしたら凄い儲け話かもしれない!」

「ああ、もしも当たっていたら俺にも一枚噛ませろよ」

「もちろんさ! じゃあ急いで真相を確かめてくるよ!」


水を得た魚の様にアルトは元気に手を振りながら走り去っていった。

きっと一時間もしない内に真相を知らせてくれるだろう。


「金が大分増えたな。何か装備品でも買うか」


武器はもしも鉄になるとしたら情報料ついでに作ってもらうとして防具か。

現状明らかに戦闘スキルは皆無なので軽い衣服で良いと思う。

靴は……長靴、履けるか?

アイテム欄から長靴を取り出す、そして今付けている初期装備の靴を脱いで長靴に足を突っ込んでみた。


「まさか本当に装備できるとは……」


ここに長靴幼女が誕生した。合羽と黄色い傘があれば完璧だな。

冗談はさておき、防具屋か服を売っているプレイヤーでも探そう。

俺は長靴を履いたまま辺りを歩き始めた。




その後の話をしよう。

俺の勘は見事に的中し、空き缶はアルミニウムとアイアンのインゴットになった。

アルトと鍛冶スキルの人は情報を秘匿。俺は密かに釣りで空き缶を釣りまくり、気付かれない様に渡すという行動を繰り返す。

そうして三人で荒稼ぎしていたが五日後、ついに鉄鉱石が取れる場所が見付かった。無論空き缶から作られたインゴットの品質はあまり高くないので自然と儲けは減り始め、空き缶商法はアルトと相談の後、解散となった。

ともあれ空き缶商法でスタートダッシュするには相応のセリンを稼いだのも事実。

アルトとはその縁もあってフレンド登録までした。


「また儲け話があったらよろしく頼むよ」


なんて言っていたので相当気に入られたのだろう。

尚、理由は不明だが空き缶は夜にしか取れない。

後にアイアンの下落と共にアルトは情報を公開。やがて金銭的に困る釣りスキル持ちと溶鉱炉を使える鍛冶スキル持ちが行なう金策の一つとして使われていく事になる。



復讐と成果

「さて、そろそろあの魚に復讐する時だ」


空き缶商法で荒稼ぎしていて忘れていたが俺の目的はあくまで『ぬし』を釣り上げる事。間違っても空き缶を釣る作業ではない。

エネルギーやスキルも一週間で相応にランクアップした今ならばもしかしたら釣れるかもしれない。一応ステータスを確認する。


名前/絆†エクシード。

種族/魂人。

エネルギー/6340。

マナ/150。

セリン/148540。


スキル/エネルギー生産力Ⅵ。

マナ生産力Ⅳ。

フィッシングマスタリーⅢ。

解体マスタリーⅡ。

元素変換Ⅰ。


エネルギー生産力Ⅵ。

毎時間2000エネルギーを生産する。

ランクアップに必要なマナ2600。


マナ生産力Ⅳ。

毎時間50マナを生産する。

毎時間エネルギーを1400消費する。

ランクアップに必要なマナ3200。


フィッシングマスタリーⅢ。

釣竿を使った全ての行動に30%の補正を発生させる。

毎時間エネルギー400を消費する。

ランクアップに必要なマナ400。


解体マスタリーⅡ。

解体武器を使った全ての行動に20%の補正を発生させる。

毎時間エネルギー200を消費する。

ランクアップに必要なマナ200。


元素変換Ⅰ。

アイテムをエネルギーに変換する。


消費エネルギーが生産量と同じだが元素変換Ⅰのお陰でギリギリ+になる。

マスタリースキルは獲得アイテム数でランクアップ条件が開く。

フィッシングマスタリーは釣った魚の数。

解体マスタリーは解体で手に入れたアイテムが1000個を超えたら出た。

Ⅰは比較的に少ない量だがⅡからガクンと増えてフィッシングマスタリーは100匹、500匹、1000匹と増えた。解体マスタリーの方も同じく相応に増えていく。


アルトから聞いた話では戦闘系のマスタリーは該当武器で倒したモンスターの数らしい。

そして俺と同様、気付いている奴が公言しないのか、実際に知らないのかは不明だが解体武器は相手にあった武器を使うと特別なアイテムが出る、という噂が広まった。

攻撃力が低いので解体武器=地雷みたいな扱いを受ける。

まあいずれ気付くだろう。お前等が地雷と言った武器が必須な事に。


そうして俺は今、藍色の服『蒼蟲の服』を着ている。

釣り仲間の間では夜釣りをするなら明るい色よりも暗い色の装備をした方が、魚が沢山釣れるというジンクスが存在する。

なんでも現実の夜釣りでも、そうなんだとか。

偽りか真実かは不明だが空き缶商法の影響、夜釣りばかりしていたので俺も願掛けにこの服を着ている、という訳だ。


ともかく俺は今日も今日とて糸を海に垂らす。

ちなみに今は朝だ。

あの日『ぬし』は昼間に引っかかった。可能性の話だが、昼に釣れると思う。

今日は一週間振りに兄弟……今は姉妹で集まる事になっている。


――俺の一週間の成果を見せる為に『ぬし』を絶対に釣り上げる。


そう意気込んで既に10時間。

今日は早朝6時から糸を垂らしているが生憎とニシンばかりで『ぬし』が掛かる気配すらない。

あの時『ぬし』が引っかかったのは本当に偶然なのだと思う。

だからこそ、俺は何日経とうと『ぬし』を釣る。そう決めた。


――ニシン獲得。


「またニシンか。今日は妙に多いな」


フィッシングマスタリーのランクが上がる毎に他の魚を釣る確率が上がっていたはずなのだが、今日は何故かニシンしか釣れていない。

趣味アイテムとして買った釣り籠にニシンがひしめきあっている。


「……ニシンの神様が化けて出たりしてな」


まあゲームの世界で神様が現れるとは思えんが。

いや、ゲームの世界だからこそ神様という偉大な存在がいるのか?


「……ん?」


海面に不自然に大きな黒い影が映る。

俺は来たか! と、期待を膨らませながら竿を強く握る。

――焦るな。決して焦るな。けれど心は熱く保て。

あの頃の俺とは違う。絶対に釣って食ってやる。


「コイコイコイコイ……」


ぶつぶつと念じながら、影ではなく竿の先端に意識を集中する。

今日まで魚を釣る際にして来た基本の動きだ。


「来た!」


――ガクンッ!

あの日感じた海に引き込まれる力強い引きを受ける。

俺は立ち上がり両手両足に力を込めて踏ん張る。

そして直に竿に掛かる強い引きを感じ取った。


通常の魚と比べて明らかに引きの判定が難しい。

まるで点の様なアタリ判定を逃さず、引きが強くなる度に引っ張る。

ぐいぐいと引っ張ってくるがこちらも負けない。


「フィッシングマスタリーⅢ舐めるなよ!」


慎重に、迅速に、されど確実な攻防を続ける。

今まで戦ったどの獲物よりも強い引き。正に『ぬし』の引きだ。


そんな戦いを30分は続けただろうか。

『ぬし』の力が弱り始めた。

俺はその好機を逃さず、追い詰める。

竿からは軋む音が響き、こちらも肉体はゲームなので問題ないが、いつ集中力が尽きてもおかしくない。


「決戦をしかける!」


点の様な小さい引きを断続的に引っ張る。



そして『ぬし』が海面から大きく跳ね上がり――――



「あはははは! 何それー! デカ! ニシンデカ!」


俺は今、ブスーっとした表情で紡と奏姉さんと合流した所だ。

背中には巨大な魚……訂正しよう『ぬし』事巨大なニシンを背負っている。

まさかのぬし様はニシンでしたよ!

巨大ニシンを背負って歩いていたら人に指差されるしさ。大変だった。


一度アイテム欄に入れようか、そんな風に思っていた時に姉さんと紡に遭遇したって感じだ。

今俺は紡にスクリーンショット……要するに写真を撮られまくっている。

スクリーンショットはキャラクタークリエイトに使用したUSBメモリに記録する事ができる。斯く言う俺も釣った魚を何匹か撮ってある。もちろん『ぬし』もだ。

しかし……先程から俺を目撃して驚いた人がカメラのポーズをするのは何故だろうな……。


「紡笑っちゃダメよ……ぷっ!」

「あんたも同類だよ!」


いや、まさか俺もあのぬしがニシンだとは思わなかったさ。

しかし何故ニシン?

そんなに美味しい魚のイメージではないんだが……。

ともあれ、俺は二人と合流を果たした。

二人のゲーム内の外見を始めて見るが……一言言わせて欲しい。


「何故に俺が一番チビ?」

「もう一人妹が欲しかったの~」


姉さんの種族は人間。

美形なのはゲームなので当たり前だが、造詣は凝ったのだろう。量産型とは一風変わった艶のある凹凸のある外見をしている。

現実でも胸は程々に大きいが、こっちでも大きい。

何故か微妙にこだわっているらしく、垂れ気味な胸だ。


「あたしも妹が欲しかったの!」


紡の種族は亜人。

狐耳がぴょこんとアクセントになっており、なんとなく顔の造詣が姉さんと似ている。

胸の方は大きくも小さくも無い。良く言えばギャルゲーのメインヒロイン程度のサイズ。

身長は俺より若干高い程度の……中学生位だろうか。


「それで俺がロリな訳ね。はいはい、ワカリマシタヨー」


そして俺が魂人。

若干透明色に近い身体。ぺったんこな胸。小さな体格。

二人と、それとなく似た容姿。

うん。確かに姉妹、というのはなんとなく分かる。

思わず溜息が出そうだ。


「……言いたい事が無いのは嘘になるけど、今はいい」

「完成された美幼女の姿に感嘆の吐息が止まらないのね!」

「それで二人は一週間どうだった?」

「流された!」


姉さんのふざけた物言いをスルーして話を進めた。

まともに相手したら陽が暮れるからな。


「すっごく面白かった!」

「やっと安定してきた所かしら」


二人は各々に一週間の話をし始めた。

紡はなんとなく分かる通り、廃人プレイを勤しみ、俺達の中で一番レベルが高い。

俺はレベルが無いので分からないが、一日のほとんどをレベル上げに費やしているのだから最初の街から一歩も出たことが無い奴よりは確実に強いだろう。

なんでも第二都市開放の為に立ちはだかったボスを仲間達と倒したんだとか。


奏姉さんの方は堅実なプレイスタイルをしている。

姉さんはどちらかと言えばFPSやアクションが得意な紡と違ってRPGが得意なタイプだ。なので確実に、失敗しない強さを獲得している。

仮に姉さんと紡が戦えば、姉さんがOKを出した時、紡の方が倒れているはずだ。

無論、戦争の申し子である紡相手に姉さんがOKを出す事はそうそう無いが。

そんな姉さんが本気を出して、紡の様な最前線にいないのは武器選びに三日も費やしてしまったからだそうだ。

自分に合うスタイルで無いと安心して戦えないと、全ての武器を試したというのだからゲーマーの鑑とでも評価しておこう。


「絆お兄ちゃんはどうだった?」

「ああ、程々に面白いぞ。魚釣り」

「え? 絆、釣りしかやってないの?」

「そ、そうだけど? 何を隠そうこの街から一歩も出ていない!」


二人から変態を眺める冷たい視線が!

特に何か目覚めない俺はMでは無いのだろう。心の底からよかった。


「ん~……絆お兄ちゃん、第二都市の方に川があるから行って見たらどうかな? 使ってる武器なに?」

「解体ナイフ」

「攻撃力に問題があるのよね~。モンスターを倒すと武器に応じてドロップアイテムが増えるだったかしら」

「そうそれ」


どうやら本来の用途は前線プレイヤーの二人でも知らない事らしい。

二人からすればネタ武器なのかもしれない。


「それでしか手に入らない奴があるから、手に入ったらちょうだい!」

「そうなのか」

「結構多いのよね。だからプレイヤー間取引で高くても買う人は多いわ。でも威力が低いから使う人が少ないのよ~ドロップもそんなに多い訳じゃないから」

「なるほどな~じゃあそろそろ俺もモンスターと戦ってみるかな」


面白い話を聞いた。

もしかしたらモンスターの方も解体が通じるかもしれない。

言葉通り明日からはモンスターと戦ってみよう。

となると武器をそろそろ買わないとな。

あまり必要を感じなかったから空き缶商法の時も結局新調してなかった。それに該当する武器でモンスターを倒すと言った。

そうなると初心者用では解体できないかもしれない。


「絆お兄ちゃん用に良い装備買ってあげようか?」

「妹に奢られるのは兄としてのプライドがな……」

「何言ってるの~普通のネットゲームだといつもレアアイテム貸して上げてるじゃない」


そうでした。

このゲームはリアリティが高いので度々現実の様に感じるがゲームでしたね。


「まあでも金には困ってないから、紹介してくれれば自分で払うぞ」

「魚釣りしてただけなのに?」

「つい最近まで売ってたアイアンのインゴットあったろ?」

「え? うん。昨日まで使ってた」

「実はな、アレの材料を集めていたのは、俺だ」

「そうなの? 材料なんだったの? アルトレーゼって人が企業秘密とか言うから分からなかったのよね~」

「鉄鉱石が出て来たから、情報公開する事になってな。まあそれで金には困ってないんだ」

「それでそれで、どこで手に入るの?」


ぴょこぴょこと狐耳が跳ねる紡へ不敵に笑い口を開く。


「あれの材料、空き缶なんだぜ?」


二人の驚く顔を眺めながら、俺はこの一週間に多少の満足感を得たのだった。



武器と船

翌朝。

俺は宿屋の自室で巨大ニシンを解体していた。

初心者用解体ナイフでは大きさに問題があり、捌き辛いがゆっくりと解体していく。

マグロ包丁でもあれば良いんだが、生憎とそんな物は持っていない。

まずは鱗を峰で一枚一枚剥がして行き、鱗を全部剥がし終わったら腹下に刃の先端を差し込みサーっと尾の方まで一気に引き裂いて開いていった。

最終的に取れた材料は――


低級王者の鱗、低級王者の髭、低級王者の牙、低級王者の心臓、低級王者の瞳、低級王者の太骨、最高級ニシンの肉、最高級ニシンの卵。


こんな感じだ。

このニシン、メスだったんだな……なんてアホな事は言わない。

解体マスタリーもⅡなので多少は補正を掛けてくれる影響、幸いにも全て捌けた。ちなみにこの後、紡の知り合いに武器と防具を作ってもらう約束をしている。